時効の援用ができないケース
1 消滅時効の援用ができないケースについて
結論から申し上げますと、以下の2つのケースにおいては、消滅時効の援用はできません。
①時効の完成猶予事由が存在している場合
②時効更新(旧法では「中断」)事由が存在している場合
いずれも専門用語であるため、具体的にどのようなものであるかをイメージするのは難しいと思います。
そこで今回は、それぞれの場合について、債務整理の実務上よく見られるものを具体的に説明します。
2 時効の完成猶予事由が存在している場合について
時効の完成猶予事由とは、一定期間消滅時効が完成しなくなる事由のことをいいます。
債務整理の実務においてよく見られるものとしては、貸金業者等から訴訟を提起された場合や、支払督促の申立てがさなれた場合が挙げられます。
これらは裁判上の請求等(裁判上の請求・支払督促・起訴前の和解・調停・破産手続参加)に含まれ、裁判上の請求等がなされている場合には、一定期間、消滅時効が完成しないことになります。
そして、訴訟で判決が確定した場合や、支払督促が確定した場合、時効が更新されます。
また、貸金業者等の債権者が債務者の方に対して、内容証明郵便等で返済の請求をする(法律上は「催告」と呼ばれます)と、消滅時効の完成が6か月間猶予されます。
時効の完成が猶予されている期間内に、貸金業者等の債権者は、訴訟の提起などをして消滅時効の完成を阻止する可能性があります。
3 時効更新事由が存在している場合について
時効更新事由とは、新たに消滅時効の期間が進行する事由のことをいいます。
具体的なものとしては、まず2で述べた確定判決が存在している場合や、支払督促が確定している場合が挙げられます。
訴訟を提起され、判決に至る前に裁判上の和解をした場合も、消滅時効の更新事由となります。
また、債務者側の立場からみて実務上重要なものとしては、債務の承認をした場合が挙げられます。
具体的には、貸金業者等の債権者と話し合いをし、借金などの債務の存在を認めたうえで、一定期間で分割返済をする旨の合意をするなどの返済の意思を示すことは時効更新事由となります。
そのほか、たとえ少額であっても債務の返済として債権者に支払いをした場合も、消滅時効が更新されます。