借用書がない場合の借金の時効援用
1 借用書がない場合でも消滅時効は完成します
結論から申し上げますと、法律上は、借用書を作らずに借りたお金を返済する債務についても、消滅時効は完成します。
そのため、法的には、消滅時効が完成する期間が経過したら、消滅時効の援用をすることで、返済する必要はなくなります。
なお、お金を借りる契約は、借用書などのような書面を作らなくても成立しますので、口約束やメール、LINEなどでも成立します。
ただし、現実的には、親族や知人など、個人からお金を借りた際に借用書を作っていないと、消滅時効の援用をすることは簡単ではありません。
以下、消滅時効はどのようにして完成するのか、および借用書がない場合の実務上の問題について説明します。
2 消滅時効の完成
親族や知人など、貸金業者等ではない相手から借り入れたお金を返済する債務については、令和2年3月31日以前に借り入れた場合、返済の期限や最後の返済日から10年を経過すると消滅時効が完成します。
そして、令和2年4月1日以降に借り入れた場合には、返済の期限や最後の返済日から5年を経過すると消滅時効が完成します。
また、権利を行使することができる時(返済を求めることができる時)から10年間行使をしなかった場合も、消滅時効が完成します。
もっとも、一般的には、債権者が権利を行使できると知った日と権利を行使することができる日は同じ日になることが多いです。
【参考条文】(改正後民法)
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
参考リンク:e-gov法令検索(民法)
そのため、借用書がなくても、返済期限から5年を経過している場合には、消滅時効の援用をすることで返済する義務はなくなります。
3 実務上の問題
上述のように、借用書がなくても一定の期間が経過すれば消滅時効は完成します。
しかし、借用書がない場合、消滅時効が完成したと言えるかどうか、すなわち返済期限や最後の返済日がいつであったかを確認することが簡単ではありません。
口約束のみで全く記録が残っていない場合には、消滅時効の完成を客観的に証明することは困難ですが、メールやLINEなどで返済期限を定めていたり、返済したときのやり取りが残っている場合には、この記録をもとに消滅時効の起算点を割り出すということもできることがあります。
そのため、借用書がない場合には、後からでもよいので、借り入れの条件をメールやLINEで残したり、返済をした際にもその旨の記録を残しておくことをお勧めします。